「誰か助けてくれぇ!妻の頭から大量の血が…!意識が朦朧としてるんだ!!」

「どなたか医師を知りませんか!?息子の命を救ってください!!」

「誰か、助けてくれ!!」

「お願い…!痛くて動けないの!!」



救いを求める声がそこかしこから聞こえてくる。バシャバシャと血の混ざった雨水をはね上げながら走り続けていたなまえは、急に立ち止まった両親に気がつき、その足を止めた。



「お母さん、お父さん!なにしてるの!?早く逃げようよ!ここにいたら、あの化物達に殺されちゃう…!」



頬をつたう雨が、まるで涙のように零れ落ちる。張り詰めた顔でそう叫んだなまえに、両親は目を見合わせると、困ったような笑みを浮かべて言った。



「……悪い。なまえ、お前は先に逃げてくれ。お父さん達もここにいる人達の怪我を見たら、すぐに追いかけるから。な?」

「な、なに言ってるの、いやよ!そんなことをしていたら逃げ遅れちゃうわ!死んでもいいの!?」

「いいわけないさ。命より大切なもんなんてこの世には存在しない。だから、少しでも多くの命を救いたい。俺達が助けに行くべきだと、そう思うんだ。」

「ごめんね、なまえ。でも、ここには医者わたしたちを必要としている人達がたくさんいるの。私達も必ず生きのびてみせるから。なまえも頑張って逃げるのよ。いいわね?」





「やだよ……行かないで!一緒にいて!!」



遠ざかっていく二人の背中を必死になって追いかける。けれど、どんなに速く走っても二人に追いつくことはできなくて。叫んでも、振り向いてはくれなくて。どんどん離れていく背中は、やがて夜雨の中に溶けて消えていった。


伸ばした手は、今日も届かない。







ピピピピ…、と突如鳴り出したアラームが、起床時間になったことを持ち主に知らせる。気怠げに体を起こし、ベッド付近に置かれた目覚まし時計を止めたなまえは、ふわあと大きな欠伸をもらした。

気持ちのいい朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。今日も良い天気だ。


顔を洗い、歯を磨き、髪を梳かし、朝のルーティンを全て終わらせたなまえは、淹れたてのコーヒーを飲みながらテレビの電源を入れた。早起きしたときに偶に見るニュース番組では、先日行われたボーダーによる小型近界民の一斉駆除の様子が報道されていた。
最近、市街地に門が開いていたのは、この小型近界民が原因だったらしい。映像の中で一瞬だったが、幼馴染の姿を見つけたなまえは、一昨日の晩に彼とした会話をふと思い出した。

『特別任務にあたることになった』と、彼は話していたが、それは今回の駆除作戦のことを指していたのだろうか。けれど、任務が終わったのなら、彼から何かしら連絡があるはずだ。何も言ってこないということは、もしかしたら他にまだやるべきことが残っているのかもしれない。
コメンテーター達のボーダーに対する賞賛の声や、厳しい意見などを聞き流しながら、なまえは「ボーダーも大変ね」とまるで他人事のように呟いた。





死にたがりな幼馴染07





そういえば、一人での登校は随分と久しぶりかもしれない。そんなことを考えながら歩いていたなまえは、気がつくとなぜか警戒区域の前まで来てしまっていた。しかも、それは完全に無意識下でのことで。習慣とは何とも恐ろしい、となまえは苦笑を浮かべた。


ここに来る気なんてなかったのだ。先日のあの出来事以来、なんだか憑き物が落ちたように心が軽く、いつも心の底にある“死にたい”という感情は少し薄らいでいるように感じていた。

それは間違いなく、あのメガネの少年が言った言葉が影響しているのだろう。



「あなたの大切な人達は、あなたが幸せになることを誰よりも強く望んでいると思うから。」

「生きてください、みょうじ先輩。あなたは幸せにならないといけない人間だ。」



「幸せ、か…。」



ふわり、と心地よい風が頬を撫でた。幸せってなんだろう。どうしたら、なれるんだろう。

自分を愛してくれる家族がいて、嬉しいことや悲しいことを共感してくれる友人がいて、どんなときでもお前の味方だと傍にいてくれる幼馴染がいる。あの頃の私は、それだけでこれ以上なく幸せだった。
大切な人達を多く失ってしまった今の私でも、幸せになることは可能なんだろうか。


警報の音が辺りに鳴り響く。どうやら、近くで門が開いたらしい。ここにいるのは危険だと思い、その場から離れようとしたなまえは、反対にこちらへと走ってきた少女を見て首を傾げた。なぜ、彼女は警戒区域の中へと入ろうとしているのだろうか。



「ちょっと、あなた、警報聞こえてなかったの?今、警戒区域内には近界民がいるのよ!」

「えっ、あ、あの……。でも、私が街の方にいると、危ないと思うので…。」

「?よくわからないけど、今危険な状況なのはあなたの方じゃない。」



全く、こんなところに自分からやって来るなんて死にたいの?と自分のことは棚に上げたなまえは、慌てる少女の手をとり、その場から立ち去ろうとした。

しかし、ズシンズシンと轟く大きな足音は迷い無く、こちらへと向かってきているようで。まだ気づかれていないはずなのにどうして、となまえは焦燥感に駆られた。
ダメだ。このままトリオン兵を連れて、街の方へと逃げるわけには行かない。それに二人の足ではきっとすぐに追いつかれてしまう。そう考えたなまえは、少女と共に警戒区域内のマンションの影に身を潜めることにした。



ズシン、ズシン……

「「………。」」



建物を挟んだすぐ向こうにいる脅威に、二人はゴクリと唾を飲み込む。隣で怯えている少女を安心させるために、なまえは繋いだ手にギュッと力を込めた。
大丈夫。この街には、こういうピンチのときに必ず現れるヒーローがいる。なまえはもう何度も助けてもらってきたのだ。今回だってきっと彼らが助けに来てくれるだろう。それまで、少しの辛抱だ。



〜〜♪

「「!?」」



突然、少女の携帯電話から軽快な音楽がが鳴り響いた。どうやら、それは着信音のようで。少女が慌てて音を止めるが、それではもう遅かった。

建物の間から顔を出したバムスターのモノアイがギラリと光り、なまえ達の存在を完全に捉える。ぞっと身をすくませたなまえは、助けて秀次、と己のヒーローの名を口にした。





ーーそのときだった。



「よっと、」

「「!?」」



突如現れた白い何かが二人を両脇に抱えると、その勢いのまま空高く飛び上がった。すぐさま後ろで、ズドンッ!!!と、建物が壊される音が聞こえる。
突然の浮遊感に目を白黒させている二人を、なるべくトリオン兵から離れた場所におろしたその人物は、「無事か?」とこの場に似合わない落ち着いた口調で尋ねた。



「「空閑くん/遊真くん!」」

「おお、ナマエさんもいたのか。ひさしぶり。」



3日ぶりにあった近界民の男の子、空閑遊真はなまえに気づくと、なんとも呑気な挨拶をした。いや、今はそんな場合ではない。トリオン兵が暴れているのだと訴えれば、彼は「オサムに任せてるから平気だ」と、そちらの方向へ視線を向ける。
なまえ達もそちらを見れば、ちょうど三雲がレイガストでバムスターの眼を破壊するところだった。

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